名古屋高等裁判所 昭和44年(ネ)722号 判決 1970年5月28日
控訴人 富士物産株式会社
被控訴人 山本長兵衛
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。名古屋地方裁判所昭和四一年(ヌ)第八一号不動産強制競売申立事件につき、同裁判所が作成した配当表中配当順位(1) 番及び(2) 番を除く、その余の部分を変更し、控訴人に金二、四九一、三〇五円、被控訴人に金五二一、六三七円を各配当する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の提出援用、書証の認否は左に付加するものの外原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
控訴代理人は次のとおり述べた。
一、本件のような配当手続において問題となり得るのは、被差押不動産の譲受人と、譲渡後の配当加入債権者との間における保護の必要性の比較の問題である。したがつて、配当手続としては、あくまで譲渡の前後を問わず、全ての配当加入債権者の間で平等に各債権者の配当額を計算したうえ、はじめて譲渡後の配当加入債権者の配当分についてその債権者と譲受人のどちらを保護すべきかを判断するのである。そして本件の場合も含めて現在の多くの取扱においては、差押不動産について抵当権設定登記があり、更にその前後に配当加入債権者があつた場合には、全ての債権者の間で平等に配当額を按分し、登記に後れた配当加入債権者への配当額について、その債権者より抵当権者に優先的地位を認めて、当該配当額を抵当権者の債権額に充つるまで配当しているのは正しく右の考え方によるものである。
したがつて、仮に差押不動産の譲受人あるいは抵当権者の地位を認めて、右に後れた配当加入債権者を保護しない立場をとるとしても、少くとも前記の手続によつて配当額の計算を行うべきであつて、本件配当手続のように、差押債権者あるいは譲渡前の配当加入債権者だけに優先的地位を与えて、それらの債権者の債権のみで配当額を計算するのは理論的にも誤りである。
そして控訴人が主張する前記の配当方法によれば、被控訴人の配当額は金五二一、六三七円に減少し、一方控訴人の配当額は、譲受人として、譲渡後の配当加入債権者の配当額を右の者に優先して受けることになつて、金二、四九一、三〇五円に増加するのである。
二、なお、控訴人は、本件差押不動産の譲受に先立ち、抵当権設定の仮登記を経由しており、抵当権者として本件差押不勧産より配当を受けることを登記簿上明示しているにもかかわらず、その後の譲受によつて配当加入の機会さえ奪われ、全く弁済を得ることができなくなるとするのは極めて不合理であり、譲受の有無にかかわらず、配当加入を許すのが正しいというべきである。又一歩譲るとしても控訴人は、譲渡前に抵当権設定の仮登記を経由していたのであるから、抵当権者として本件配当手続においてその有する債権について被控訴人と平等に配当さるべきである。
理由
当裁判所も控訴人の本訴請求は、理由がないものと判断するが、その理由は左に付加するものの他、原判決理由と同一であるからここにこれを引用する。
一、不動産強制競売開始決定にもとづき差押の効力が生じた後は、債務者は当該不動産についての処分を禁止され右処分禁止の効力の利益を享受できる者は、差押債権者及び処分前(処分の対抗要件具備前)にその強制執行手続に参加した債権者らに限ると解するときは、これらの者が他の債権者に比し優先弁済を受ける結果となることは否めないところである。控訴人のいうように民事訴訟法は金銭債権にもとづく強制執行について、原則としていわゆる債権者平等主義を採つているものと解せられるが、右主義に徹しているものでないことは、同法第五六四条第二項、第六〇一条、第六〇二条第一項但書、第六四五条の規定から明らかであり、したがつて右平等主義に反し、一部債権者が優先弁済を受けるような結果を招くというだけで、前記のような解釈が許されないものとはいい難い。
二、民事訴訟法第六四五条第二項によれば、第一の競売申立債権者が債務者所有の不動産に対して強制競売の申立をして差押をした後、第二の債権者が同一不動産に対して更に強制競売の申立をした場合、第二の申立は執行記録に添付されることにより、配当要求の効力を生じ第一の申立にもとづく競売手続が取消となつたときは、第二の申立人は、競売手続の主宰者となるのであるが、その時期は、記録添付の時以後である。したがつて、第一の申立にもとづく競売開始決定と第二の申立との間に債務者が競売の目的たる不動産を第三者に売却し、その旨の登記を経由しておれば、右第三者はその所有権取得をもつて第二の申立人に対抗できるから、第二の申立(これにもとづく記録添付)は許されないこと明らかである。若し控訴人のいうようにこの場合は配当要求は許されると解すると、第二の競売申立人に比し著しく不均衡である。
或は第二の申立については、記録添付は許されないが配当要求としての効力があるとなし、右のような不均衡はないという考え方もあり得るが、同法第六四五条の規定から右のような考え方を採用できない。
三、控訴人は差押債権者が債務者と通謀して差押後直ちに第三者に差押不動産を移転登記したような場合、配当加入は不可能となり不合理であると主張するが、それは結局債権者が自己の権利行使を怠つたことによるものと考えられるから、右主張も理由がない。
四、控訴人は、競売の目的たる不動産について債務者が抵当権を設定した後配当要求がなされた場合の配当方法は、差押債権者、抵当権者、配当要求債権者間で債権額に応じて按分され、配当要求債権者に配当される分は、抵当権者の債権額に充るまで、抵当権者が吸収できるのであるから、本件の場合も同様に取扱うべきであると主張する。しかして差押後に抵当権設定登記が経由され、その後に配当要求債権者が現われた場合には、抵当権者は、差押債権者に優先権を主張できないが、配当要求債権者にはその優先権を主張することができるけれども、差押債権者と配当要求債権者との間に優劣がないので、その配当手続が控訴人の主張するような方法でなされるべきは当然である。何となれば、債務者の差押後における処分が抵当権設定である場合には、他の一般債権者にとつても、当該不動産は、未だ債務者の責任財産に属しているということができるからである。しかし右の債務者の処分が譲渡である場合には、配当要求をした時において、すでに債務者の責任財産ではなくなつているのであるから、右を、前記抵当権設定の場合と同一にみることは到底できない。
五、更に控訴人は競売の目的たる不動産について、譲受に先立ち、抵当権設定の仮登記を経由しているところ、右不動産を譲り受けたという一事をもつて配当要求の機会が奪われるのは不合理であり、抵当権者として本件配当手続において被控訴人と平等に取扱われるべきであると主張する。仮に、控訴人がその主張のように右不動産について抵当権設定の仮登記を経由していたとしても、控訴人において配当要求をなした時において、すでに右不動産は控訴人の所有に帰していたのであるから、その配当要求の許されないものであること明らかである。また、抵当権設定の仮登記は後になされる抵当権の本登記の順位保全の効力を有するに過ぎず、右仮登記をもつてその抵当権の対抗要件が具備されたものとなし得ないから、控訴人は被控訴人に対しその抵当権を主張できないものであり、抵当権者として被控訴人と平等に取扱われるべきであるとの控訴人の主張も理由がない。
以上の次第であるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がなく、棄却を免れない。
よつて民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 布谷憲治 福田健次 高橋爽一郎)